2014年7月4日金曜日

サッカー日本代表への提言

ブラジルW杯はベスト8が決定。5~6日(日本時間)の朝にベスト4が決まる。ベスト8には、グループリーグ(GL)各組の首位チーム(ブラジル、コロンビア、フランス、ドイツ、オランダ、コスタリカ、アルゼンチン、ベルギー)が残った。コスタリカ以外は順当な結果だ。コスタリカ以外ならば、どこが優勝してもおかしくない。

世界の代表選手は闘争心が旺盛

GLから決勝トーナメント(T)における出場国のサッカーを見ていて感じるのは、日本代表のそれとの違いだ。パス、クロスおよび選手の走りにおけるスピードの違い、競り合いの強さの違い、高さの違い、持続力の違い・・・いわゆるフィジカルの違いだ。そして忘れてはならないのが、日本以外のチーム(選手)の集中力の高さだ。勝とうとする意思の強さは、代表選手のプライドの高さに直結している。一言でいえば闘争心の違いだ。

終盤になると足を痙攣させる選手も目に付く。味方、敵を問わず、動けなくなった選手の脚を伸ばしてあげるシーンは、おなじみの光景になっている。日本のGL3試合において、脚が痙攣するまで走った日本人選手はいたのだろうか。管見の限りだが、見かけなかった。脚を痙攣するほど走らなかったのか、鍛錬しているので痙攣しないのか、筆者は前者だと感じている。

「リアクションサッカー」が今大会のキーワード

以前の拙コラムで書いたことだけれど、世界のサッカーのトレンドは明らかに、フィジカル重視になってきている。攻守の切り替えの速さ、裏に飛び出す速さ、ゴールに向かう速さ、いわゆる走力(のスピード)は、現代サッカーの必要絶対条件の一つになっている。もちろん、パス、クロスも速い。速いパスをうまくトラップする技術も必要だし、クロスに合わせられる身体的強さ、反応・判断力も求められている。

攻守の切り替えが速いということは、カウンター攻撃が主流だと換言できる。GLでパスサッカーのスペインを粉砕したオランダの監督が、自らのサッカーを「リアクションサッカー」と臆面もなく表現した。その「リアクションサッカー」は、Jリーグではネガティブな古い戦法だと言われていて、そこからの脱却、すなわち、自分たちが仕掛けるサッカーを目指していたから皮肉なものだ。その影響は日本代表が掲げた「攻撃的サッカー」にも言える。日本はいつの間にか、一周遅れのトップランナーになっていたのだ。間抜けな話だ。

ファンファーレ監督の言うところの「リアクションサッカー」は、相手がボールをもった瞬間から攻撃が開始される。相手ボールを奪う強いプレス、たとえ奪えなくともミスを誘発し、マイボールにしたその瞬間、攻撃が始まる。相手ボールをマイボールにする確率は、守備に人数を割くことだ。それが5バックの採用だろう。

日本代表選手となる条件 

ボールを奪ったならば、それを一気に相手ゴールまで運ぶ。この一連の動作を書くことは簡単だけれど、それを90分間続けることは極めて難しい。持続力の強さが必要だ。これらを総じて「リアクションサッカー」と呼び、それを可能にする基盤が選手のフィジカルの強さということになる。

日本代表がこのトレンドに乗ることは必要なのだろうか。もちろん、このトレンドに乗らなければ日本は世界で勝てない。今後、日本のサッカー選手が日本代表となる条件の第一は、強いフィジカルをもっていることとなる。

CBの重要性

「リアクションサッカー」の説明としては、ここまでで半面が終わったにすぎない。残りの半面は、守りの強さだ。もちろんその要となるのは、センターバック(CB)。CBで重要な要素は、第一に「高さ」ということになろう。例外もある。16強に入ったチリだ。チリは先発全員が身長180cm以下という特異なチームだった。そんなチームがないわけではないが、日本のフィジカルエリートの体格の平均身長に鑑みて、180~190cm台のCBを育成することはそれほど難しくない。むしろ、チリのようなDFをつくることの方が困難だろう。Jリーグならば、神戸の岩波拓也が代表クラスのCBになる可能性を秘めている。

ボランチの弱体化が日本の敗因の一つ

守備において重要なのが守備的MFだ。守備的MFでチーム力は決まると言っても言い過ぎでない。もちろん、強いフィジカルが求められる。

日本がブラジルで惨敗した要因の一つが守備的MFの選手の代表選考にあった。ザッケローニが日本代表を率いてから、W杯予選、親善試合を重ねるうち、人材が豊富といわれる日本の中盤に変化が起きていた。長谷部(キャプテン)・遠藤で鉄壁だと思われていたこのポジションに、コンフェデ大会あたりから綻びが生じていたのだ。

第一は、長谷部のケガ、第二は遠藤の衰えだ。ザックジャパンは「本田のチーム」だと言われるが、全体から見れば、「長谷部のチーム」だ。その長谷部が長期離脱し、本番にはいちおう間に合ったものの、GL3試合にフル出場してチームを牽引するまでのフィジカルの回復は無理だった。遠藤の場合も、アジア地区予選終了後、急激に衰えを見せ始めた。そこで若手の山口、青山を起用して親善試合に臨んだが、完成するに至らなかった。ボランチのポジションにおける筆者の序列は、ナンバー1に細貝萌、2位山口、3位青山であったが、ザッケローニは細貝を評価しなかった。

本田と心中せざるをなかったザッケローニ

ザッケローニは日本代表監督に就任して以来、パス回しを基本にした「攻撃サッカー」を戦い方のコンセプトにしたが、それは本田を中心にしたチームという意味でもある。長友、香川がいる左サイドを基点として、中央の本田が決定的な仕事をするというイメージだろう。そのような組立には、守備的MFの遠藤の攻撃的センスが不可欠だった。つまり、本田と遠藤は有機的関係なのだ。

この本田中心のイメージは、第一に前線のセンターフォワード(CF)にボールを集めるポストプレーの可能性を排除した。2014W杯に向けて、日本代表におけるワントップの候補選手としては、大久保、豊田、ハーフナー、佐藤寿、川又らが挙がって当然だったが、ハーフナーの場合は本田が意図的に代表選考を妨害したとの情報も流れている。そのため、日本のワントップは柿谷、大迫、大久保に落ち着いたが、3選手とも似たようなタイプで、ポストプレーに迫力を感じさせないことに共通項が見いだせる。しかも、大久保の代表選出は、W杯開催の直前だった。ザッケローニは本大会直前、本田の調子が上がらないことに焦り、急遽、大久保を代表に選んだのだと思う。

それでも大久保は本番のコートジボワール戦、ギリシャ戦においてトップではなく、サイドで使われた。本田のイメージは、サイドでできた基点に自分が積極的に絡み、▽自分が得点を上げること(この形は、初戦のコートジボワール戦で実現している。)、▽決定力のある右サイドの岡崎に決定的パスもしくはクロスを上げること、▽相手ファールを誘って自分がフリーキックを決めること――の3パターンだったに違いない。いずれのシーンも自分をビッグクラブに引き上げる原動力となる。本田の上昇志向(=利己心)にチームが利用されるということだ。

一方、世界のサッカートレンドは、日本のW杯前最後の親善試合ザンビア戦の勝ち越し得点シーンであるボランチ(青山)からトップ(大久保)への最速パスのような速い攻めの流れにシフトしていた。ザッケローニはそのことにおそらく気が付いていた。気が付いていながら、(青山のように)FWに速いパスを供給できるセンスをもった守備的MFを攻撃の基点にするサッカーを構築することができなかった。時間がなかったのだ。ザッケローニは、本大会に臨んだ日本代表チームの欠陥を承知していたと思う。たぶん、コンフェデ杯のころには、これではだめだと感じていたと思う。だが、いまさら遠藤~本田に象徴される「攻撃サッカー」を更新するサッカーを身に着ける時間がないことも承知していたのだろう。ザッケローニは本田の回復を信じて、彼との心中を決意した。

日本はコートジボワール、ギリシャには勝てた

結果論でなく、日本が入ったC組はコロンビアが群を抜いていて、残りの日本、ギリシャ、コートジボワールの力は拮抗していた。しかもコートジボワール戦、ギリシャ戦は日本に有利な形で試合が展開していた。コートジボワール戦では先制できたし、ギリシャ戦では相手に退場者が出るという幸運に恵まれた。

勝利に執着できなかった日本代表の精神的弱さ

そればかりではない、この2チームはチームづくりとしては古風で、コートジボアールには組織力が欠如し、ギリシャには攻撃に係る戦力・戦術が欠如していた。つまり、本大会のベスト8に残ったチームが持つ規律、組織力とチーム・バランスが欠如していた。それでも日本が勝てなかったのは、日本選手に闘争心とフィジカルが欠けていたからだ。脚が痙攣するほど、走らなかったからだ。勝負に対する執着心、攻撃性、集中力が不足していたからだ。チームのために献身するという意識が希薄だったからだ。

本田がコンフェデ杯ころから、「個の力」を重視した発言をしだしたころから、日本代表のサッカーは何かを失った。サッカーは個人の上昇志向の道具ではない。中心選手の中に、自分を高く売るために代表を利用しようという魂胆が見え隠れするような者がいれば、チームは弱体化する。

結論として言えば、これからの日本サッカーを背負うことができる人材に必須の条件は、「個」よりも「チーム」の勝利のために献身する精神をもった者の出現ということに尽きる。個人の夢を第一義にする利己的存在ではなく、チームへの献身を第一義とする精神性を発揮できる存在ということになる。ビッグクラブへの道は、その結果として自ずとついてくるものだ。

そのような人材を育成するためには、日本代表として、興行的親善試合を減らし、勝負にこだわった試合をできる限り多くセットし、勝つための訓練を積み重ねるしかない。