2016年11月13日日曜日

トランプのアメリカと日本

(1)アメリカの中間層革命

アメリカ大統領選挙は予想外の結果でトランプがヒラリーに勝った。筆者も予想していなかったけれど、投票日前、NHKTVが放映したエマニュエル・トッドの特番を見たあたりから、トランプがもしかしたら・・・という漠とした思いを抱くようになっていた。そして、その思いが現実となってしまった。

トッドはトランプ現象を「アメリカ中産階級の革命」だと評していた。米国の中産階級をいかに定義するかは議論があると思うものの、格差社会の急速な進展の中で没落する可能性の高い人々なのだろう。エリート層から疎外され、転落する可能性に抗えないとなったならば、そうした状況を脱するため、彼らは悪魔にすがることも辞さない。それが革命的意識の醸成根拠である。

おそらく8年前、彼らはオバマに希望を見出し、オバマに投票したはずだ。ところがオバマは革命(チェンジ)どころか、エリート層のいうままに格差を固定化し、中間層を見捨てた。だから、彼らは「ヒラリー」を嫌った。「ヒラリー」は「オバマ」と変わらない。アフリカ系の次は女性というエリート層のイメージ戦略を見抜いていた。「ヒラリー」になっても「オバマ」と変わらないことを予見していた。

このたびの中間層の選択を「革命」というならば、彼らが意図する現状変革のための最初の一歩は成功した。ただ、それが「トランプ」というところが納得できない。トランプが繰り返してきた言説はヘイトスピーチだった。それをおもしろがってアメリカのメディアが流し、結果的に宣伝したことがトランプの勝因の一つだった。中間層に革命的意識が広がったとき、そのエネルギーを負(トランプ)ではなく正(?)に転換することにアメリカ社会は失敗した。

トランプは共和党の予備選で敗退すべき候補者だった。ところが、そんな存在がいつのまにかトランプ現象となってしまった。その主因は、前出のとおり、メディアがトランプの言説を容認し、拡声器となってアメリカ社会に流し続けたことにある。その結果、トランプという負のエネルギーは中間層の反エリート意識と混合し、膨大な数へと膨れ上がっていった。そうなってしまえば、もうだれも止められない。風、流れ、潮流・・・いろいろな表現があるが、理性が投票行動を律する状況から、情動的で単純な言説に人々が囚われていくうねりが生ずる。女性、非白人、移民、イスラム教徒・・・といった差別意識が白人層に高じ、トランプ現象となり投票行動に結実する。

(2)トランプのアメリカと日本

このたびのアメリカ大統領選挙が日本人に有益であったのは、アメリカ社会の実情を知ったことにある。アメリカは自由の国ではないこと、豊かな社会でもないこと。むしろ、断絶、格差、貧困、差別・・・が日本以上に進んだ、歪んだ国だということ。〝アメリカンドリーム″は遠い過去の神話だということ――を思い知ったことではないか。

それでもアメリカに無条件に追従していこうとする日本の政治指導部の愚かしさが白日の下に晒されたのが、TPPの強行採決である。日本の総理大臣は、なにも見えていないかのようだ。

日本がもっとカネを払わなければ、米軍を撤退させるぞと脅すトランプに慌て怯えているのがその彼であり、その側近たちだ。トランプの脅しは、未果じめ料を払わなければ、お前の店がどうなるか・・・と脅迫する暴力団と同じレベル。そんな脅しに自ら屈してしまおうと、さっそくトランプに挨拶に行くそうだ。まずはトランプ詣でか。「トランプさん捨てないで」か。

アメリカは内部から崩壊しつつある。アメリカが世界に誇れるのは唯一軍事力だけ。だが、軍事力で古代世界を制圧していたローマ帝国も、それだけで存続することはできなかったという歴史がある。

アメリカを絶対化し、それに隷属することばかり考える日本の政治家、公務員、学者、メディア業界人・・・トランプショックからすみやかに目覚め、相対的にアメリカを見るときがきたことを自覚せよ。