2016年11月16日水曜日

サッカー日本代表、誤審とサウジの自滅で命拾い

▼ロシアW杯アジア最終予選]日本 2-1 サウジアラビア/11月15日/埼玉

日本がホームでサウジアラビアを2-1でくだし、グループ2位に順位を上げた。

出場選手は以下のとおり。

GK西川周作
DF(Lsb)長友佑都、(Cb)森重真人、(Cb)吉田麻也(Rsb)、酒井宏樹
MF(D)山口蛍、(D)長谷部誠
MF(O) 清武弘嗣(⇒香川真司、後半19)
FW(Rs)原口元気、MF(Rs) 久保裕也(⇒本田圭佑、後半03)
FW(C)大迫勇也(⇒岡崎慎司、後半48)

本田、香川、岡崎がベンチスタート

特筆すべきは、既に多くの報道が示すとおり、不動のメンバーといわれてきた、本田、香川、岡崎が外れ、久保、清武、大迫が先発に名を連ねたこと。筆者は12日の拙Blogにおいて、「鮮度を取るか、実績を取るか」と書いたが、ハリルホジッチは「鮮度」を取り、結果を出した。

筆者は、ハリルホジッチの成功を日本のサッカー発展という視点で評価したい。「本田」に代表される海外ブランド信仰は、スポーツ選手の実力評価とは無縁のマーケティング的視点。彼らは大手広告代理店操作による「広告塔」だ。ハリルホジッチは前任者ザッケローニと同様、“本田と心中”する覚悟だと筆者は書いたが、この試合を境にして腹をくくった。本田をとれば、自分は職を失うと。彼は本田との心中から心変わりした。

ミランで控えが続く本田のことを、「二軍の巨人軍選手」と揶揄したコメンテーターがいた。いい表現だ。二軍でも巨人の選手だといってありがたがる野球ファンがかつては多かったようだが、いまはそうでもない。今日の野球界のスーパー・スターは、イチロー、大谷、筒香、ダルビッシュ、田中であって、巨人の選手ではない。サッカー界(=メディア業界)ではいまだ、“ミランの10番”だけが取り柄の本田にすがっている。

日本勝利の4要因

(一) ブランド選手から、調子のいい選手の起用へ

ハリルホジッチの勝因を整理しておこう。第一は、ここまで書いてきたとおり、先発メンバーを変えたこと。「広告塔」から実力本位、コンディション本位にしたことだ。オフェンシブMF(トップ下)を香川から清武にしたことにより、チームの攻撃に推進力と多様性が生じた。本田を外したことにより、速さが加わった。大迫を真ん中に入れたことで攻撃の基点のターゲットが明らかになった。

(二)献身的プレーの復活――原口の頑張り

二番目は、FW(Ls)原口が勝利のために献身的姿勢を貫き、自身のプレーでチームメイトに示したこと。彼はとにかく攻守に身体をはり、よく走った。そのことで、チーム全体に貢献の意識が共有された。もっとも、原口の姿勢を学ばなかった選手もいたが、そのことは後述する。

この試合まで原口と対称に位置するFW(右サイド)の「オレサマ本田」は、自分が得点する意識ばかりが強く、守り、攻守の切り替えの意識がない。本田は右サイドラインの守備をおろそかにして、真ん中に入りすぎる。そのため攻守のバランスを崩していた。

一方の原口は、左サイドライン沿いの前線から自陣までの守備に献身的に取り組んだ。チームへの献身という意識が原口と本田の差である。サッカーの神様は、献身的な原口に得点機会を与えた。

なお、原口が左サイドを行ったり来たりするプレーについて、スポーツコメンテーターの岩本輝雄氏は、原口の運動量に敬意を表しつつ、「原口に長い距離を走らせるのは、左サイドバックの長友、ボランチの長谷部の守備に問題があり、チームとしては良くない」という指摘をした。慧眼の至りとは、まさにこのこと。

原口が若く、体力があり、W杯出場のモチベーションが高い選手であるのに比べ、長谷部、長友はW杯経験者で若くない。がむしゃらさが失われていたとしてもそれは自然過程というもの。若い選手にチャンスを与えたほうが、W杯予選では良い結果に結びつく。

(三)誤審で日本優位の展開に

主審が日本に絶好のプレゼントを与えてくれた。問題のシーンをリプレー映像で見る限り、清武のシュートはサウジアラビアDFの胸に当たっていた。その跳ね返りが手にふれたかどうかまではわからないが、手にふれたとしても故意によるものではないから、ハンドはない。日本にとってプレッシャーのかかる試合、予期せぬ先取点を日本がもらったことにより、この試合の展開は大いに日本有利となった。

なお余談だが、日本のTV中継ではこのような微妙な判定について、角度を変えた映像を繰り返し流すことがない。日本に不利な判定の場合はリプレー映像を流すが、日本有利の場合はさらりと切り抜ける。海外のサッカー中継ではそのようなことはあり得ない。これでは国際映像としての価値をもたない。日本のテレビ中継を世界中のスポーツファンが楽しむ時代、TV業界は相変わらずの鎖国状態で偏狭なナショナリズムに支配されている。誠に嘆かわしいし、情けない。

(四)サウジアラビアの戦術的失敗

・サウジのアンチフットボールが逆効果

サウジアラビアの闘争心が空回りした。試合開始早々から、彼らは苛立っていたように見えた。と同時に筆者はW杯南アフリカ大会決勝のスペイン1―0オランダを思い出していた。この大会でオランダ代表を率いていたのが、いまサウジアラビア監督のベルト・ファン・マルワイク。彼は技巧派でこの時代、絶頂期にあったスペインに対し、序盤から徹底したアンチフットボールを仕掛けた。試合は荒れに荒れ、オランダは9枚のイエローをもらい(CBヨン・ハィティンハが2枚目のイエローで退場)、スペインに敗れた。サウジアラビアのラフプレーがファン・マルワイクの指示だったかどうかはわからないが、主審の心情がホームの日本に傾いたことは否定できない。

・ボールを持ちすぎたサウジ

サウジアラビアの選手はボールを持ちすぎた。彼らはボールをもつと、なぜかしらないが、ワンプレーを入れたがる。とくに前線の攻撃側の選手に顕著だった。ホーム日本が激しいプレスをかけてくるものと予期して、一回ボールキープして日本選手が飛び込んでくるのを外すことを目的としたプレーなのだろうか。そのため、攻撃がワンテンポ遅れ、逆に日本の前線の選手の落ち着いた守備に引っかかった。このことが、サウジアラビアが攻撃にリズムをつかめなかった最大の要因である。逆にいえば、日本の選手がむやみに飛び込まなかった成果ともいえる。この面では日本の情報収集力がサウジに勝っていた。

サウジアラビアが攻撃の形をつくり始めたのは、日本の追加点が入った後半35分以降。ここから、ややパワープレー気味のロングボール主体に攻撃スタイルを切り替え、日本を追い込み始めた。しかし残り10分余りとなれば、1点を返すので精いっぱい。同点に追いつくことはできなかった。

日本のDFは高さに弱いし、ペナルティーエリアでミスを犯す傾向がある。展開力にこだわらず、パワーに重きをおいた攻撃に早めに切りかえておけば、日本を崩せた。知将といわれるファン・マルワイクだが、この試合に限れば、彼の策略はすべて裏目に出た。日本を甘く見たのか、策に溺れたのか、サウジのサッカーに自信過剰となっていたのか定かではないが、日本の献身的かつ走る守備的サッカーがサウジアラビアのパワーを上回る結果になった。

日本代表、まだまだ続く茨の道

日本はホームでサウジアラビアに勝ち、予選折り返し点でグループ2位の自動出場権が得られる順位に入った。日本の成績はホームで3試合、勝点6(UAEに勝点0、イラクに同3、サウジに同3)、アウエー2試合で同4(タイに勝点3、オーストラリアに勝点1)の10。2017年のアウエー3試合(UAE、イラク、サウジアラビア)は、ホームよりもはるかに厳しい。この3試合で勝点5以上なら、2位以内を確保できるだろう。

ライバル、オーストラリアが最下位タイと引き分けたのは朗報だが、とりあえず、ロシア行きの確率を五分に戻しただけ。清武、原口、大迫という新戦力の発見はプラス材料だが、逆にいうと、日本の伸びしろはもうないという見方もできる。ハリルホジッチの茨の道はまだまだ続く。