2023年8月4日金曜日

マイナ保険証の闇

  

顔認証付きカードリーダー

 現政権はなぜ、国民の疑心・不安を無視して、やみくもにマイナ保険証制度(マイナンバーカードの保険証利用)を進めようとしているのか。マスメディアの報道からは、その真相がうかがえない。そこですでに報道された関係各所が提供している情報から、その主因を探ることとした。筆者は政権内部を取材できる立場にないし、関係各庁に対しても同様である。ゆえに、ここからの叙述はすべて推測の域を出ない。 

 

〔1〕マイナ保険証の狙いは専用端末を売り上げることか 

 

 マイナ保険証はマイナンバーカード(以下「マイナカード」という)と健康保険証が一体化する形態をとり、患者等が当該カードを全国津々浦々の医療機関の窓口に設置される「顔認証付き専用カードリーダー」という端末器機で読み取ることで機能する。そこではじめて、必要情報が医療機関に反映され事務等の合理化・簡素化が図られる、というのが推進の趣旨となっている。つまり、マイナ保険証は顔認証付き専用カードリーダーが存在しなければ、全く機能しない。ここがポイントだと筆者は推測する。


 顔認証付き専用カードリーダーはだれが造り、だれが儲けるのか


 マイナカードと顔認証付き専用カードリーダーの関係はいかなるものなのか。マイナカードの写真と端末の顔認証機能の突合で本人確認ができる、つまり、なりすましは不可能だ、マイナカードに患者の医療情報が紐づけられているから、医療機関は専用端末を媒介して、それら情報を読み取り入手できる。健康保険証と健康情報を一元管理することが最大のメリットだ、と政府は説明する。繰り返せば、その一元管理のため、健康情報等が紐づけられたマイナカードに蓄積された情報を、専用の顔認証付きカードリーダーという器機が読みだす必要があり、各医療機関等はそれを備えなければならない、という運びとなる。 

 顔認証付きカードリーダーの価格は仕様によりバラツキがあるが、1台13万円程度のものもあり、富士通JAPANパナソニックシステムソリューションズジャパン、アルメックス、キヤノンマーケティングジャパン アトラス情報サービス――から売り出されている。顔認証付きカードリーダーの導入費用は、病院・診療所、薬局・大型薬局(以降「医療機関等」という)とも1台まで無償提供される。マイナ保険証利用環境整備を目的とした補助事業として、国の予算措置がなされている。 

 医療機関等が負担すべき費用は専用端末の購入費用に関しては1台まで無償提供であるが、保守点検等の管理費用は以降、医療機関等の負担となる。それだけではない。医療機関等は、システムを動かすためにシステム・ベンダーと呼ばれる専門業者に稼働に必要な設定等を依頼する必要があり、その費用が補助額を超える高額見積もりが提出されているケースもあるようだ。システム・ベンダーは30社以上といわれ、ダイナミクス、クライムソフト、EMシステムズ、NEC、富士通、NTT東日本/NTT西日本、また電子カルテORCAとの連携している電子カルテを扱う業者にシィ・エム・エス、三栄シスポなどがあるという。 


マイナ保険証に係る補助金は税金が原資


 国は当初導入費として、前出の顔認証付きカードリーダー設置及びシステム可動に係るベンダーへの支払いについて予算措置をしていて、厚労省が示している補助金額は、導入時期により補助金の額が変わる、いわゆる加速プラン(早い時期に導入すれば補助額が大きくなる制度)があったのだが、その申請期間は過ぎているので、顔認証付きカードリーダーを令和3年4月1日以降(加速化プラン対象外)で申請した場合、   

  

・病院(顔認証付き顔認証付きカードリーダーを1台申請), 補助限度額は105万円まで  
(事業額の210.1万円を上限に1/2を補助)  

・病院(顔認証付き顔認証付きカードリーダーを2台申請), 補助限度額は100.1万円まで  
(事業額の200.2万円を上限に1/2を補助)  

・病院(顔認証付き顔認証付きカードリーダーを3台申請), 補助限度額は95.1万円まで  
(事業額の190.3万円を上限に1/2を補助)  

・大型チェーン薬局, 補助限度額は21.4万円まで  
(事業額の42.9万円を上限に1/2を補助)  

・診療所又は大型チェーン薬局以外の薬局, 補助限度額は32.1万円まで  
(事業額の42.9万円を上限に3/4を補助)  

  

となっている。医療機関等には手厚い補助があるが、その原資はすべて税金である。つまり、顔認証付きカードリーダのメーカーおよびシステム・ベンダーと呼ばれるシステム会社は、マイナ保険証を政府が制度化することで、莫大な売上げを実現できる仕組みになっていることがわかる。関係企業の売上げはもちろん前出の通りほぼ税金からである。さらに端末の顔認証付きカードリーダーおよび同システムにはメンテナンス費用が病院等が廃業するまでかかり続ける。こちらのランニング・コスト(1台導入のクリニックで月額約2.5万円といわれる)は税金ではないが、ほぼ永続的に医療機関等が負担する。


端末器機メーカーとシステム・ベンダーは丸儲け


 病院、診療所、薬局が全国で何軒あるのか調べていないのでわからないが、そうとうな軒数だろう。端末メーカー、システム・ベンダーは販売促進にかかる経費や広告宣伝費もほとんど使わず、莫大な売上げが上がる。 筆者は関連企業と政府与党がどのような関係にあるか取材していないのでわからないが、特別な関係があるものと推測する。この推測が正しければ、マイナ保険証の推進は、与党(政)~行政(官)~事業者(財)、いわゆる政官財のトライアングルが庶民には見えにくいカネの流れを押さえて労せずしてカネを得る、「昭和型」の典型利権構造事例の一つとなるだろう。政官が仕掛け、財がそれにのり利益を上げ、その一部が政官に還流することが、かつて頻繁に行われていた。

 専用端末やカードを用いないで行う諸事務のシステム化は、ドイツ、韓国等で実施されていて、その模様が某テレビ番組で紹介されていた。医療機関等が顔認証付きカードリーダーを用いず、既存のパソコンで本人確認も医療情報の入手も可能なシステムである。端末を補助金すなわち税金で関係機関に買わせる日本のやりかたは、いかにも日本らしく姑息で時代遅れに思える。 


マイナ保険証制度が頓挫すれば、顔認証付きカードリーダーは無用の長物に


 世論の批判を受けてマイナ保険証制度を中止するとどうなるか。前出の通り、国は医療機関等に対して、顔認証付きカードリーダー導入を促進するため、早期に導入をすれば補助金額を増額する加速プランまで打ち出していた。同プランをインセンティブとして、当該専用端末の導入を「加速」した。だからすでに設備化した医療機関等は少なくないだろう。もしも、世論に屈して国がマイナ保険証制度を中止すれば、医療機関等が導入した顔認証付きカードリーダーは受付カウンターの上で埃をかぶったまま放置される。無用の長物と化すのである。そればかりか、設置・可動に要したシステム・ベンダーへの支払いも無駄になる。医療機関等の負担は補助金の枠を超えた分だけだが、補助分はまるまる税金ーー国民が納めた税が浪費されることになる。さらに、顔認証付きカードリーダーのメーカーの生産ラインも無駄となる。つまり、政府はもはや、マイナ保険証制度(事業)から撤退不可能な状況にある。 


〔2〕 IDナンバーおよびIDカードは必要だ

 

 筆者はマイナンバー(ID番号)およびマイナカード(ID証)を国民全員がもつことに賛成する。任意ではなく全員に付与しなければならない。そのことを考える際に、パスポート(制度)を参考にしてみる。パスポートは世界人口79億弱の中の「私」が私であることの唯一の、そして世界規模の証明書だ。そこに記された番号と顔写真、発行した国の証書が一冊になって、「私」であることが証明される。出国、入国等が確認されることはもちろんだが、飛行機の予約が確認され即座に航空券が発券されるし、ホテルでも「私」が予約客であることが確認される。海外でトラブルに巻き込まれた時、それを見せれば日本国民であることが確認され、日本大使館が保護してくれるかもしれない。その取得・携帯は国内では任意であるが、海外渡航の際は義務である。  


日本国内においても、本人確認はこんごますます必要となるだろう


 国内における「私」の確認はどうなのか。「オレがオレであることは、となりのバアちゃんに聞いてくれればすぐわかるよ。産婆だったんだから」なんて牧歌的な御仁も田舎にはいるのかもしれないが、一般的には通用しない。海外では、もともと多民族国家もしくは近年、移民増で多民族国家化した国では顔写真付きIDカードが必携のところが多いという。汝帝国臣民 「単一民族国家」の悪夢を見続ける御仁には、ID番号もID証もその必要性を感じないかもしれないが、自分が必要なくても、それを日本で必要とする人(移住者)が増加するだろうし、そういう人のためにも精度の高いID番号・ID証の制度が必要となる。ネイティブの日本人であっても、本人確認できるID番号をもってデジタル化されれば、なりすましによる被害は防止されるし、住民票だ、戸籍謄本だ戸籍抄本だ、転入届だ・・・と、めんどくさい手続きが簡素化される。行政はそれら事務から解放され、人材をほかの重要な部署にまわすことができる。 ID情報が銀行口座と紐づけられることがいやだという御仁もいるようっだが、よほどの隠し財産をお持ちの方か、適正な納税をしていない方かのどちらかかその両方だろう。

 社会諸機構におけるデジタル化の促進は望むところだ。その基盤となるのが全員付与のID番号とID証だ。そして、それを国民の利便性に資するように構築することーーつまり、システムの全体像が描かれていることが必須となる。ところが現政権は、単品のシステム化すなわち、保険証⇔専用端末に固執し暴走する。単品でシステムを構築すれば、この先、単品ごとに専用端末を現場が設置しなければならなくなる。愚の骨頂である。


安心・安全なIDナンバーおよびIDカード制度に必要なこと


 国民の個人情報デジタル化を推進するには、政権が個人情報のデジタル化を使って国民を抑圧する危険性を排除する仕組みの構築が重要である。デジタル化の促進と個人情報保護が両立していなければ、真の革新的技術とはいえない。もちろん、利権の媒介となるような「デジタル化」は論外である。権力側が個人情報を濫用できないようにするためには、権力を監視する超越的機関も必要となろう。一方、日本国の「デジタル化」は、コロナ禍で進んだ「アプリ開発」を例にとると、かなり質が悪くイライラする。デジタル化は高度なシステム開発力と、高度な運用力(監視制度等)が並立して安全かつ効率的に作動する。


危険なのは、〈人間の知〉の発達と〈経済社会体制〉の発達のアンバランス


 デジタル化を否定し、いつまでも紙に依存するような風潮はよろしくない。かつて、思想家・吉本隆明は原発問題について、人間の知の発達(ハード)と経済社会体制(ソフト)の齟齬について次のように発言し、警鐘を鳴らした。 

現在、宇宙科学、素粒子論など人間の知の発達に比べ、経済社会体制の発達は遅れていて、両者はアンバランスです。これは今の文化・文明の根本問題です。原発が安全性の合意のないままに、技術のみが先行してつくられているという現状も、ほんとうの原因はここにあります。人間の歴史は大変なところにきているのかもしれません。しかしこれは次の段階への始まりなのです。(「原子力エネルギー利用は不可避『婦人画報』1986.8月号/『反原発異論』吉本隆明著P179~180)
 日本の場合、知の発達も経済社会体制の発達も、そのどちらも遅れているうえ、両者のアンバランスは異常なまでの危険レベルにある。 〔完〕