2011年10月19日水曜日

『原発の深い闇2』

●別冊宝島 ●宝島社 ●980円

日本は利権国家だといわれる。日本国における利権の構造の特徴はいくつかある。たとえば、人々の生存に必須な部門において、より強固な利権が関係者によって築かれている場合が多いことを挙げることができる。生存に係る部門というのは、農業(食糧)、エネルギー、医療、年金、公共施設…等々のことをいう。

また、利権は政~官~財の結びつきによって守られ、さらに、第四の権力と呼ばれるマスメディア業界の関与が近年顕著なことも特徴だ。たとえば、斜陽産業といわれる農業(食糧)の場合、利権の主体は農業協同組合、行政(農水省、地方自治体)、政治(国政、首長、地方議会)で、この三者が共同で他の参入を妨害する一方、“素朴な農民(業)を守ろう”という「世論」を形成するマスメディア業界が、前出の三者を援護するという構図になっている。マスメディア業界が「第4の権力」と言われる所以だ。

そればかりではない。利権は弱者救済、正義、良心、合理性等に基づく「政策」の化粧を施されて温存される。農業の新規参入を阻んできたのが、“素朴な日本の農民(業)を守ろう”という「良心」であったことは前出のとおりだ。

利権の構造については、近年、表面的にはメスが入れられているかのようにも見える。▽郵政民営化、▽年金改革、▽公共事業に係る契約の透明化等が図られたようにみえる。だが、改革とは名ばかりで、既得権が温存されていることが多い。

そして、原発利権である。
原発利権には、電力会社、ゼネコン、地元建設業、原発メーカー、行政(経産省、文科省、地方自治体、警察)、司法、政治(国政、首長、地方議会)、地域社会、マスメディア業界、芸能界、文化人、労働団体、学界までも関与した。原発利権は、日本のすべての業態が群がっているという意味において、格別のスケールを誇る。しかも、原発(建設から稼働まで)が有する反社会性、反道徳性、非人間性、危険性等が良心的研究者・ジャーナリスト等から指摘されながら、大手マスメディア業界はそれを無視し、電力会社の出稿する広告宣伝費の前に沈黙した。こうした原発利権に群がる集団をいつしか世間は「原発マフィア」と呼ぶようになった。

3.11は、原発の矛盾を公にした(はずである)。人々はその危険性を認識した(はずである)。「はずである」のだが、事故発生後7か月にして、原発の非人間性、危険性の認識は薄れてきているように思える。けれど、人々の関心が原発から遠ざかることを非難できない。というのも、原発マフィアは、マスメディア業界を使って、情報隠ぺい、情報操作、情報偽装等あらゆる手段を通じて、人々の意識を「安全宣言」の方向性に誘導しているからだ。日本における3.11以降の状況について、本書はナチの宣伝大臣ゲッペルスの言葉「充分に大きな嘘をくりかえせ」を引用する。3.11以降、日本に宣伝大臣がいるわけではない。なんとなく、それとなく、原発の「安全性」が空気となる。日本の権力構造の不可解さだ。

その間、原発事故を契機として、市民活動家を前歴とする菅直人は彼なりの良心に基づき、原発の危険性を真摯に受け止めたように思える。彼は次々と脱原発に向けて政策の舵を切り始めた。ところが、いつのまにか形成された“反菅”の空気に押し出されるように、菅直人は総理大臣の職を追われた。

菅に代わって総理大臣の座に就いた野田佳彦は、内向きには「脱原発」を掲げながら、国際公約として「原発推進」を宣言した。経産省は高まる東電解体、発送電分離の世論をかわしつつ、その利権をすべて温存することに成功した。経産省傘下にある原発関連の公益法人等はすべて無傷なままだ。

原発安全を保証してきた原子力学界からの真の反省の声は聞こえない。ばかりか、「笑っていれば放射能は逃げていく」と被災住民に説いている「学者」がいる。

マスメディア業界は、脱原発を政治信条とする新任の経産相のクビをとばした。

原発マフィアの構成員には、3.11はなかったかのようだ。彼らは「彼らに降りかかった3.11」を切り抜けようと躍起になっているばかりか、その利権を守り、さらにより強固にする計画を作成し実行しつつある。日本国民の生命を犠牲にして。

さて、本書の編集コンセプトは、前号から継続して、3.11以前及び3.11以降に継続して行われている原発マフィアたちの悪行をタブーなしで暴露する内容となっている。本書から、原発マフィアが、3.11以降も自らの悪行を反省したり自己批判したりする気配がないことをうかがい知ることができる。

本書の目玉の1つは、古賀茂明、小出裕章、広瀬隆の三氏の登場ではないか。古賀は、3.11以降ではあるが、現役経産省官僚の立場から政府の事故処理、原発政策を批判し、経産省を辞めている。小出、広瀬は3.11以前から反原発、脱原発の立場を掲げてきた。三者の原発行政批判は信頼できる。

もう1つの目玉は、本書掲載の原発マフィアに関する各種データだ。▽電力会社に取り込まれた大手新聞社幹部社員の実名一覧及び原発学者の実名一覧、▽原子力等関連の公益法人、独立行政法人の役員・総資産等の一覧、▽電力関連会社から敦賀市(原発立地)への寄附金一覧――等も興味深い。なかで驚異的なのが、巻末の▽「全国原発立地」電源三法交付金公開一覧だ。

『原発の深い闇』は1~2号を通じて、「闇」の実相を暴露し、人々を啓蒙した。もちろん、その功績は称えられるべきだ。ならば次のミッションは、原発マフィアの息の根を止める方法を明らかにすることではないか。啓蒙から、反原発、脱原発の運動論、組織論に踏み込めれば・・・原発の深い闇を払う、闇を光に変える、という意味において、次号(3)に期待したい。