2017年3月31日金曜日

危険なスピリチュアリスト・安倍昭恵

森友問題がますます混迷を深めている。籠池泰典の口封じをしたい政府与党は、メディアを使って恫喝を強めている。一方、安部政権を追い詰めたい野党は次々と新証拠を繰り出して、追及姿勢を緩めない。一見膠着状態のように見えるが、この問題の構図は極めて単純である。その構図を改めて示そう。

森本問題の「実行犯」は財務省

問題は、財務省が国有地を不当に値引きして、森友学園を特別扱いで払い下げたという単純なもの。国有財産を管理する財務省が一民間法人(籠池泰典)の指値に応じ、不当にも廉価で国有地を払い下げた。当該国有地の価格を査定したのが国土交通省。つまり二つの省庁が、結果として、籠池泰典の要望をほぼ無条件に受け入れたわけだ。この問題を刑事事件ふうにみたてれば、「実行犯」は国土交通省及び財務省(の役人)であり、払下げの所管は財務省だから、財務省の担当者が「自白」しさえすれば、「事件」の真相は判明する。

しかるに、財務省は籠池泰典との取引の詳細を明らかにしない。記録はないと強弁している。つまりこの問題が行き詰まっているのは、「犯人」の一人(財務省)が、「犯行」を「自供」しないが故なのだ。

「実行犯」はもう一人いる。籠池泰典と財務省との折衝を代行した首相夫人付き秘書。この秘書は経済産業省からの出向者で、「夫人付き」という肩書で安倍昭恵に仕えていた(秘書)。ということは、国有財産不当払下げ「事件」は、国土交通省、財務省、夫人付き(経済産業省)という、三つの中央省庁に属する者によって実行されたことになる。なお、籠池が新設しようとした小学校の認可については、大阪府(私学課)が関与していたらしいが、その問題はひとまず置く。

「主犯」は安倍首相夫人

三者の「犯行」の動機は何か――マスメディア報道を読む限り、明らかではない。三つの省庁の担当者が籠池泰典からの金銭授受や接待を受けた事実はなさそうに思える。そこでマスメディアが使いだしたのが「忖度」という概念だ。役人が政治家等の圧力を見越して、気をまわして融通を図ったに違いないと。確かにそういう役人の行動原理は少なからず見受けられるもので、今回の場合は、籠池が政治家を使って役所を動かしたという推測がなされた。

しかし今回に限っては、政治家ではなく、政治家のしかも総理夫人の妻・安倍昭恵(の威光)がちらつきだした。そして籠池の国会での証言と、その後に出てくる証拠から判断する限り、籠池の意図を汲んだ安倍昭恵に対して、複数の省庁(役人)が心遣いを示したことが明らかになってきた。換言すれば、森友問題の「犯行」の「主犯」は、首相夫人・安倍昭恵である疑いが濃い。この問題は、安倍昭恵の思いを実現するため、少なくとも三つ以上の省庁(の役人)が「従犯」として尽力した可能性が高い。

首相夫人・安倍昭恵の正体
だが、疑問が残る。安倍昭恵がなぜ、籠池泰典のためにここまで尽力したのか――と。安倍昭恵と籠池(夫妻)が親密であったことはメールのやりとり、写真等で明らかになっているが…

森友学園と安倍昭恵の関係に係る注目すべき論評が東京新聞(2017/3/28夕刊)に掲載されている。「ナチュラルとナショナル 日本主義に傾く危うさ」(論壇時評)と題された、中島岳志・東京工業大学教授の小論だ。タイトルは抽象的でわかりにくいが、要は、首相夫人・安倍昭恵の本質を問う内容になっている。当該記事の要約を以下に示そう。


  • 昭恵夫人は森永製菓の創業家に生まれ、聖心女子専門学校卒業後、電通入社
  • 会社の上司の紹介で安倍晋三と出会い、24歳で結婚
  • 夫・安倍晋三の政界入りと同時に山口県の選挙区に入り「政治家の妻」として活動開始
  • 境遇が大きく変わったのは2006年。夫が総理大臣に就任し、44歳の若さでファーストレディーになったが、「三歩下がって夫を立てる良妻賢母」という型に戸惑う。
  • 突然の夫の総理大臣辞任。激しいバッシングと夫の体調不良で「どん底」を味わう。
吉本隆明にならえば、「現実が強く人間の存在を圧するとき、はじめて人間は実存するという意識をもつことができる。ここで人間の存在と、実存の意識とは、するどく背反する。(『マチウス試論』)」というわけだ。

安倍昭恵は、夫の総理大臣辞任と、その後にやってきた「どん底」生活から、強くおのれの実存を意識し出し、これを契機として、大きな自己転換を図った。「私らしく自分の人生を生きたい」と。

まず、大学院に入り勉強をし直す一方で、神社めぐりをきっかけに、スピリチュアル(霊的)カウンセラーや神道関係者、ニューエイジ系の自然主義者と交流し、精神世界への関心を深める。そして、スピリチュアルな自然主義者としての活動は政治性を帯びる。
たとえば、
  • 無農薬・無添加食品にこだわる居酒屋「UZU」開店
  • 脱原発運動への接近
  • 3.11以降の防潮堤政策批判
  • 三宅洋平と意気投合
  • 沖縄・高江訪問
加えて奇妙なのが「大麻崇拝」である。昭恵は、
  • 大麻の神秘性と有用性を訴え、
  • 大麻は日本の神事と深い関係があると主張
  • 大麻栽培禁止はアメリカの占領政策だと主張
  • 過疎地で産業用大麻を栽培する活動を支持(昭恵は栽培地・鳥取県智頭町を視察する。しかし、その当事者は大麻所有容疑で逮捕)
極右教育を礼賛

昭恵のスピリチュアルな活動が古来の神秘へと接続し、日本の精神性の称揚へと展開しはじめ、ついには国粋的な賛美へと思想形成されるに至る。ここまでが、中島の論文の要約である。

さて、森友問題に戻る。昭恵が日本会議(籠池奏典)と出会うことは必然だった。籠池は園児に『教育勅語』を暗唱させるなど、極右思想を注入する洗脳教育をすでに実施していた。安倍昭恵は籠池の極右的幼稚園の存在を知り、籠池と親交を持つ。そして小学校設立の構想を聞くに及び、大いに賛同し、学校設立を応援した。昭恵は、籠池が運営する幼稚園を訪れ、その教育方針及び内容に実際ふれて感激した、という意味のコメントを公にしている。そして昭恵は、籠池によって新しく設立される小学校の名誉校長に就任する。(問題発覚後辞任)

昭恵が「主犯」「黒幕」として、国有地大幅値引きを画策した「動機」は明白である。籠池の小学校設立に思想的に共感し、それを応援しようと活動したのだ。国土交通省、財務省、経済産業省(から出向の秘書)は、首相夫人の強い「動機」を感じ取り、夫人付き秘書を介した安倍昭恵の要望を悉く受け入れた、と推測される。

安倍首相の辞任発言

この問題で政府が追い詰められるようになった要因は、もう一つある。それは国会で安倍総理大臣が「・・・私や妻が関係したということになればこれはまさに私は間違いなく総理大臣も国会議員も辞めるということをはっきりと申し上げておきたい」と発言したことだ。

安倍晋三は妻・昭恵の森友問題への関与を知っていたのか。おそらく知っていた。安倍晋三は関与していたのか、どうか。そのことの確証はないが、それほど深く関わっていたとは思えない。ただ、安倍晋三が日本会議と親密な関係にあることはよく知られていて、妻・昭恵が籠池と親しいことは知っていたと思われる。

ただ、安倍が選挙区ではない豊中の私立小学校設立について、深く関与したとは考えにくい。それでも、妻・昭恵が(名誉校長に就任する)極右的教育方針の小学校設立のため、財務省の(当時の)理財局長をよびつけて「よきにはからえ」くらいは伝えたかもしれない。その理財局長が組織を通じて、近畿財務局担当者に(よきにはからうよう)命じたかもしれない。その程度かもしれないが、それでも総理大臣が、「深くはないが関与」したことに変わりはない。妻・安倍昭恵は森友問題に深く関与した。

だから、昭恵はこの問題の「主犯」なのである。さらに夫・安倍晋三も、深くはない関与をした疑いが濃い。安部総理大臣夫妻がこの問題に関与したのであるから、国会答弁に従い、安倍は国会議員と総理大臣の職を辞することが筋となる。

問題の本質は首相夫人の思想性

森友問題は単純な構図の「事件」であるが、問題の本質は総理大臣夫人が、カルト思想の持ち主のままで、さまざまな分野で活動しているという事実であって、こちらのほうが重い問題である。

精神世界への傾斜、ニューエイジ思想、エコロジー思想、自然農法・・・ナイーブ(うぶ)な女性が環境・自然破壊に憤り、社会の諸矛盾に関心を持ち始めた時、神秘思想はその解決の唯一の手段のように思えることがある。資本主義の矛盾の解決には大きな困難が伴うものだが、霊的なものに解決策を求めると、いとも簡単に世界が変革されるような錯覚に陥る。前出のとおり、安倍昭恵はその典型の一人である。

安部昭恵の旋回は、21世紀の今日、だれもが陥りやすい思想的隘路である。ここで先に引用した吉本隆明の言説を繰り返しておく。
現実が強く人間の存在を圧するとき、はじめて人間は実存するという意識をもつことができる。ここで人間の存在と、実存の意識とは、するどく背反する。
実存の意識の獲得は大切な一歩ではあるが、無防備な女性が、カルト思想、神秘主義、ロマン主義、神国思想、国粋主義といった、安易な「変革の思想」に取り込まれる危険もある。精神界、霊界に委ねれば、そこからファシズム、排外主義、国粋主義、超国家主義に通じる道が開かれたことは、20世紀の歴史が証明している。首相夫人である安倍昭恵が、その手の思想に深く染まっている事実を、国民は深刻に受け止めなければいけない。昭恵はマスメディアがつくりあげている、いわゆる世間知らずの「善人」ではない。

前出の中島は、同論文中に次のように書いている。
従来、スピリチュアリティと政治の結びつきは、1960年代後半から70年代のヒッピー文化を底流としてきたため、エコロジーやオーガニックという自然志向とともに、左翼的な主張につながる傾向にあった。しかし、その近代批判が土着文化への回帰を促し、伝統礼賛へと傾斜すると、時に「ニッポンすごい」という愛国的・右派的な言説へと合流する。
          (略)
かつてナチス・ドイツも有機農業を称揚し、独自のエコロジー思想を打ち出した。ヒトラーは「化学肥料がドイツの土壌を破壊する」と訴え、純粋な民族性と国土のつながりを強調した。
〈右派的な権力者・安倍晋三首相〉と〈スピリチュアルな自然主義者・安倍昭恵夫人〉。この両者の一体化は、危険な超国家主義を生み出しかねない。
筆者は中島に全面的に同意する。